ジャバラジャバラジャバラジャバラ…思わず口ずさみたくなる(個人的見解)名前のこの果物。
ご存知でしょうか?
和歌山県北山村が原産の柑橘類の一種で、特徴はヒノキを想わせるスーッとした清涼感のある香りと強い酸味。
その強い酸味は「邪気を払うほど」と言われ、そこから転じて「ジャバラ」という名前になりました。
近年、花粉症に効くと話題になり、数多くのメディアに取り上げられることもありました。
北岡本店でも吉野物語シリーズにジャバラを採用しています。
しかし、お客様にこれをおすすめすると「ジャバラって何?」と目を丸くされることもしばしば。
今回は、まだまだ未知の神秘な果物・ジャバラを、奈良県でただ一軒生産している農家さんのもとを訪れました。
訪れたのは奈良県下北山村。和歌山県北山村に隣接し、川の流れる音と木の葉が揺れる音しか聞こえてこないような、深い山の中にその村はありました。
「遠いところ、よく来てくれたねぇ」と笑顔で出迎えてくれたのは、ジャバラ生産者の西村さん。缶コーヒーやジュースをいっぱい出してきてくれる“田舎のおじさん”らしいおもてなしを受けて和んだところで、畑にご案内いただき、お話を伺いました。
西村さんが栽培しているジャバラの木は約300本。毎年2トンほどのジャバラが収穫されます。これだけの量を、収穫期を除く普段は西村さんが一人で手入れをされています。
ジャバラはその香りや味わいも個性的なのですが、木そのものにも面白い特徴があります。
果物を栽培する過程では、摘果という作業があります。
摘果とは、まだ実が小さいときに間引くことで、これを行うことで実が大きくなったり味が良くなったりと、品質が高くなります。
300本もの木の摘果を西村さん一人で行うのは大変な作業でしょう、と言うと、意外な答えがありました。
「ジャバラは摘果しなくていいの。ジャバラの木は生命力が強いから、自分にとって余分な実は自分で勝手に落とす。」
人の手が加えられていると言えど、まだまだ野生の頃の記憶が色濃く残っているのでしょうか。
「どれだけ実をつけるかは俺の問題だ。人間には関係ねぇよ。」といったワイルドな声が木から聞こえてくるようです。
もしくは「自分の事は自分でするよ。おじさんも大変だろ。」という思いやりにあふれた青年のような…(あくまで筆者の想像です)
西村さんがジャバラの栽培を始めたのは13年前。北山村に住む知人にすすめられたのがきっかけだったそうです。
小さな接ぎ木から始まったジャバラの木は、販売できる品質の実を付けるまで少なくとも10年間の生育期間を要します。
技術指導を受け、自らも試行錯誤を繰り返してついにジャバラが実り、収穫をすることができました。
当初、このジャバラは北山村に買い取られ、全国へと出荷される予定でした。
しかし、下北山村で栽培されたジャバラは北山村で設けられている規格に沿わなかったために買い取りの話は無くなってしまいました。
それ以来、西村さんは自身で販売先の開拓を始め、今となっては下北山村を代表する特産物の一つとなり、様々な加工品も作られています。
近年、下北山村のジャバラのファンが増えているといいます。
「私の花粉症に効くのは西村さんのジャバラだけ!」という声もあるそうです。
隣接している村で栽培されている同じ果物なのに、何故か人によっては北山村産のものと比べてその効果や味の感じ方に歴然とした差があるというのです。
土によるのか、気候によるのか、栽培方法なのか。理由は明らかにはなっていません。しかし確実に「下北山村のジャバラ」というブランドは確立しつつあります。
小さな木から始まって、その育て方の研究をしたり、販路の開拓に奔走したりと、現在に至るまでに幾多の困難がありました。
それでも西村さんは、ジャバラの木と共に、力強くそれらを乗り越えてこられました。西村さんをそこまで駆り立てるものは何なのでしょう。
「西村さんって、何でジャバラを作ってはるんですか?」
「見て、この景色。きれいやろ。初めてジャバラの畑を見せてもらったとき、うわー、ええなぁって思った。自分も作りたいなぁって思った。」
視線の先では、枝がしなるほどたわわに生り、黄色く熟した実が太陽の光を浴びながら山からの風を受けて、つやつやと揺れていました。
今年は、今までで一番の豊作です。